坂口恭平『新政府展』にみる「セッティング」と「アウトプット」

坂口恭平『新政府展』を観るため、表参道駅を下車後、ワタリウム美術館へ。16時50分着。森本千絵展も同時開催中で少しだけ鑑賞。17時10分写真家金川晋吾君と合流。半年ぶり。

帰国後、まず第一に行きたかった坂口恭平『新政府総理展』。2009年10月に滋賀県立大学レクチャーを聴いての衝撃以降、著作や日記も随分読み込んできた。僕にとっては彼の活動に対する文献確認作業と新たな情報収集の場と考えていた。以下展覧順を追って回顧してみたい。

早速展覧会を観るべく入館。ペアチケット1600円。期間内は再入国可能のパスポート制。チケットはカード式で新政府内閣総理大臣の印鑑も押されてある。自分の顔写真スペースまであって凝っている。

2階から4階までの展示空間。
入るといきなりコクヨデスクの秘密基地。これは当然大人には入れない大きさだが幼少期にここで夢想していたのかと思うと微笑ましい。続いて卒業論文の原版『東京ハウス』や思考都市。『東京ハウス』原版がハードカバーでとにかくかっこういい。60年代カルチャーに影響を受けた坂口さんらしいカラフルな写真表紙。学部4回生でこれをつくることは、飛びぬけて未来に対する意識が高かったことのあわられ。

続いて『思考都市』。「坂口恭平」を中心に「芸術」「建築」「音楽」「アウトプット」(多分。。)という奇妙な分類軸。なのでアウトプットの項と他の項は重なる。ただしこの「アウトプット」という項は展覧会の中で僕にとって重要なキーワードだった。作品を吐き出し続ける坂口さんは、とにかく「セッティング」がうまいからこそ、これだけの作品群を生みださせるんだ。彼は自身に対する優秀な編集者のでもあるのだ。この「セッティング」と「アウトプット」のキーワードを意識して展覧会をまわった

ホームレスハウスのスケッチ群。現地でスケッチしたものが荒々しく臨場感があって味わい深い。またこういった空間に近い焦点でレンズを向けられる彼の好奇心は本当にすごい。僕の場合、こういった現場に遭遇した時、ためらいはじらいの心理が生まれ、微妙に距離感を生んでしまう。

続いてモバイルハウスをはじめて目の当たりにする。もちろんビス打ちまくりの荒々しい作業だが、建具がきちんと開閉できたりとディティールに遊び心がある。ビス止めされた階段が怖く二階には登れなかった。今和次郎や西山卯三のスケッチでてくるようなバラックの様相。リズムデザイン担当のモバイルハウスも想像以上に広々としていて快適そう。モノがなければこれぐらいの最小限空間でも居住可能かもしれない。路上カプセルホテルなんて今後あるかもしれない。

ドローイングは始めて現物そして詳細部分を目にする。手法としては、二点透視図を用いてスクエア型の開口部ビルディングを積み上げる。切り妻屋根瓦を詳細に書き込むというパターン。ただ圧倒的な描き込み量に驚かされる。僕は『立体読書』のドローイングがパターンも豊かで精度も高く好きな作品。4階にある『AIR AFRICA』原版は気になっていた存在。これも自由な妄想感覚が出ていて線もラフな感じで他の作品とかなり違ったテイスト。

最上階は新政府の動画と今後の展望、学生時代のポートフォリオ。露天商品を撮った写真集や設計課題作品「貯水タンクに棲む!」のポートフォリオがあり、ファンにはたまらない展示。設計課題の点数がA-だったんだとはじめて知った。映像だけと思いきや、何十枚にもわたりレポートや都市建築に対する思いが記述されている。学籍番号も書いてあって大学生坂口恭平の情景が浮かんだ。

一緒に展覧会をまわった写真家の金川晋吾くんの感想も面白かった。例えばオイコスノモスの話を知識人がいうとリアリティを持たないが、坂口さんが発すると妙に説得力がある。これは一貫して彼自身の半生で得たリアリティを表現させているにすぎないからだ。と会話した。

世代も近く(一歳上。3学年上)僕自身大学時代に影響を受けたものの重なりも多い。「石山修武」「宮本常一」「ジャンプルーヴェ」「今和次郎」「西山卯三」等々。だけど坂口さんは彼らを瞬時に私淑し、「セッティング」を始める。そしてチューニングしながらすぐさま「アウトプット」へと移行させる。この俊敏性と爆発力は作品そのものより「坂口恭平」の個性化や問題意識を強めていく。そしてまわりを取り込んでいく。僕たちは当然彼に憧れを抱くが、同時に嫉妬もする。要は、これを受けて自分で「セッティング」と「アウトプット」をして世界をつくることを使命化していかないといけない。この展示は強くそれを訴えかける。